先日、NHKの連続テレビ小説「マッサン」で、衝撃的な場面を見ました。
それは、戦争が終わって、主人公のマッサンの甥が内地から日本に帰ってきた場面です。その甥は、シベリアで強制労働をさせられていた辛い経験を語るわけですが、その過酷さに誰もが戦争は悲劇しか生まないと感じたことでしょう。
私も、そのように感じながらドラマを見ていましたが、その場面では、他にも非常に興味深いことが語られていました。
消化されない黒パン
毎日、過酷な強制労働をさせられていたのに与えられる食料は、黒パン1個と不味いスープだけ。
その甥は、黒パンは、消化されないまま便として排泄され、それを洗ってまた食べていたというのです。本当に悲惨な体験です。二度と戦争が起こらないことを望みます。
それとともに穀物が消化に悪いということも、再度、認識できました。
黒パンは、小麦粉でできているのかどうかはわかりませんが、穀物から作られているはずです。穀物を加工して作られた黒パンが消化されずに排泄されるのですから、胃液では、穀物を消化しきれないということでしょう。
また、別の番組を見ていた時、トマトに衝撃を与えて細胞壁を破壊する装置が紹介されていました。ドーンという大きな音がした後、トマトの細胞壁が破壊されるのですが、見た目にまったく変化はありません。でも、そのトマトは中身がすべて液体になっていました。そして、それにストローを刺してトマトジュースとして飲んでしまうのです。
番組の解説では、トマトの細胞壁を破壊することで、普通に食べるよりも多くの栄養を補給できるということです。
これには、非常に納得しました、植物細胞は人間が胃腸で消化分解できない細胞壁で覆われているので、生で野菜を食べても、思ったほど栄養を吸収できないはずです。
胃液でも消化できない穀物や野菜が、健康に良いと考えるのには無理があると思います。ましてや、米や玄米を生で食べるなんて、胃腸に負担をかけるだけで何のメリットもないと思うのですが。
胃液は非特異的生体防御システムのひとつ
多くの人は、胃液は、食物を消化するためにあり、それが主目的だと思っているのではないでしょうか?
私もそう思っています。
でも、胃液の本来の目的は、もしかしたら食物の消化ではないかもしれません。
人間には、体内への外敵の侵入を防ぐための防御システムが備わっています。病原体の種類を問わずにそれらが体内に侵入するのを防ぐシステムを非特異的生体防御システムといいます。皮膚、粘液、鼻毛、涙、唾液などがその具体例で、どれも外敵の侵入を防ぐために人間の体に備わっています。
この非特異的生体防御システムの中には胃液も含まれています。
「カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第3巻 分子生物学」で、胃液の働きが簡単に説明されています。
高濃度の塩酸やタンパク質分解酵素によって病原体を破壊する。(228ページ)
病原菌はタンパク質でできています。だから、タンパク質を破壊してしまう機能を持つことで、体内に病原菌が入ってきても、それらをやっつけることができるのです。胃液は、まさに病原菌をやっつけるために人間に備わっているものだと言えます。
以前にタンパク質が消化に良いということを以下の記事に書きました。
この記事を読めばタンパク質が消化に良いということはわかるのですが、おそらく、中には科学的根拠がないと反論される方もいるはずです。
でも、胃液が、食物を消化することではなく、病原体を破壊することを主たる目的としていると考えれば、肉が人間にとって消化しやすい食べ物だということがわかるでしょう。高濃度の塩酸とタンパク質分解酵素が、病原菌の侵入を防ぐために速やかに彼らを破壊するのですから、タンパク質でできた肉も同じように速やかに消化できるだろうということは、容易に想像できます。
これもテレビ番組で見たことなのですが、プロの料理人が玉ねぎを切っても、あの独特の苦みや目を渋々させる刺激臭は出ないそうです。なぜなら、プロは玉ねぎの細胞を破壊せずに切ることができるからです。
素人が玉ねぎを切ると、細胞も切ってしまい、その中からあの苦みや刺激が出てくるようです。
美味しいかどうかは別にして、素人が切った玉ねぎの方が、細胞壁を破壊しているので、玉ねぎの細胞から栄養を補給しやすいということでしょう。
でも、素人が玉ねぎを切ると、苦みや刺激臭が出るわけですから、これは玉ねぎが自らの体に仕込んだ罠だと考えた方が良いのではないでしょうか?食べると、苦いし涙も出るから、自分を食べるんじゃないぞと玉ねぎが言っているのかもしれません。
それはどうなのかわかりませんが、とにかく穀物や野菜よりも肉の方が胃液で消化しやすいということです。