筋肉のグリコーゲンは血糖値の上昇には使われない

グルコース(ブドウ糖)は、グリコーゲンという形で肝臓と筋肉に蓄えられます。

肝臓のグリコーゲン貯蔵量は100グラム未満、筋肉のグリコーゲン貯蔵量は筋肉量が多い人で300グラム程度です。肝臓のグリコーゲンは血液中のグルコース(血糖)が減少した時に使われます。

そして、筋肉のグリコーゲンは、筋トレや全力疾走のような無酸素運動をするとエネルギーとして使われます。しかし、筋肉のグリコーゲンは血糖を上昇させるために使うことはできません。

筋肉はグルコース-6-ホスファターゼを持っていない

グリコーゲンは、グルコースがたくさん結合した多糖類です。

グリコーゲンをそのまま血中に放り込むことはできないので、血液の中のグルコースの量を増やすためには、グリコーゲンをバラバラにしてグルコースにほぐす必要があります。

グリコーゲンは、様々な酵素を使ってグルコース1-リン酸、グルコース6-リン酸を経て、グルコースまで分解されます。

肝臓には、グリコーゲンをグルコースに分解するのに必要な酵素が揃っていますが、筋肉にはグルコース6-リン酸からグルコースに分解するグルコース-6-ホスファターゼという酵素がありません。なので、筋肉に貯蔵したグリコーゲンはグルコース6-リン酸までしか分解できず、この状態では血中にグルコースを放り込むことができません。そのため、筋肉に貯蔵したグリコーゲンは、筋肉のエネルギーとして使われます。

血糖の管理はすい臓が行っている?

低血糖は、死の危険があるので、人間に限らず動物は低血糖を防止するために血糖値を上げるホルモンを複数用意して保険をかけていると言われています。グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモンといったホルモンが血糖値の上昇に関わっています。

一方、血糖値を低下させるホルモンはインスリンしかありません。血糖値を下げるホルモンがインスリンだけというのは何とも心もとないです。

血糖値を下げるホルモンがインスリンだけというのは、人類の長い歴史で糖質を摂取するようになったのが、1万年ほど前とつい最近のことだから、体が高血糖に対処できるほど進化していないと言われています。

でも、すい臓の働きをみると、血糖値を下げるホルモンがインスリンだけしかないことに何となく納得できます。

すい臓には、ランゲルハンス島という分泌細胞が集まった部分が散在しています。そして、ランゲルハンス島には、A細胞が15%、B細胞が80%、D細胞が5%の割合で分泌細胞が存在しています。それぞれの分泌細胞の働きは以下のとおりです。

  • A細胞=グルカゴンを分泌。肝臓に働きグリコーゲンからグルコースへの分解を促進し血糖値を上げる
  • B細胞=インスリンを分泌。筋肉細胞へのグルコースの取り込みを促進し血糖値を下げる
  • D細胞=ソマトスタチンを分泌。A細胞とB細胞に作用してグルカゴンとインスリンの産生と分泌を抑制

この3つの分泌細胞の働きをみると、主にすい臓が血糖の管理を行っているように思えませんか?

インスリンを分泌するB細胞が圧倒的に多いので偏っているようにも思えますが、とりあえず、すい臓で、血糖の上昇と下降の指示が出され、血糖を上げすぎたり下げすぎたりしないようにD細胞を監視役に据えていますから、血糖の管理体制はできていますね。

アドレナリンや成長ホルモンは筋肉へのグリコーゲン取り込みが主たる役割か?

血糖値を上昇させるホルモンには、すい臓のA細胞から分泌されるグルカゴンの他に副腎から分泌されるアドレナリン、脳下垂体前葉から分泌される成長モルモンも関わっていると先ほど述べました。

  • アドレナリン=グルカゴンが肝臓に働きグリコーゲンの分解を促進するのに対して、アドレナリンは肝臓と筋肉に働きグリコーゲンの分解を促進
  • 成長ホルモン=中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解。グリセロールは肝臓や腎臓で行われる糖新生によって、ジヒドロキシアセトンリン酸、フルクトース1,6-二リン酸、グルコース6-リン酸を経てグルコースになる

アドレナリンも成長ホルモンも、グルコースの生成に関与しています。そして、グルコースは血中に放り込まれるので血糖値が上昇します。ただし、筋肉のグリコーゲンはグルコース6-リン酸までしか分解できないので血中に放り込むことはできません。

ここからは私の勝手な妄想です。

アドレナリンも成長ホルモンも血糖値を上げる働きをしていますが、本来の目的は筋肉へのグリコーゲンの貯蔵なのかもしれません。

アドレナリンも成長ホルモンも運動をすると分泌されます。運動で筋肉を激しく動かせば、筋肉に貯蔵されているグリコーゲンがエネルギーとして消費されます。だから、消費されたグリコーゲンと同量のグリコーゲンを再び筋肉に貯蔵する必要があります。

そこで、アドレナリンと成長ホルモンを分泌してグルコースを生成し、血流に乗せて筋肉へと運び、グリコーゲンを補充しているのではないでしょうか?

インスリンなしでもGLUT4を細胞膜に移動させれる

各組織にグルコースを取り込むためには、グルコーストランスポーターというタンパク質が関わっています。栄養学博士の川島由起子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」によると、その種類は以下の5種類です。

  1. GLUT1=ほとんどの組織にあり赤血球、脳、腎臓に発現。肝臓にはない
  2. GLUT2=肝臓、すい臓のB細胞、腎尿細管、小腸上皮細胞に存在
  3. GLUT3=神経細胞や胎盤に存在
  4. GLUT4=筋肉と脂肪組織に存在。インスリンによって発現
  5. GLUT5=小腸上皮細胞に存在。フルクトースの輸送体

筋肉にグリコーゲンを貯蔵するために働くのはGLUT4です。

GLUT4は、筋肉の細胞内にあります。インスリンが筋肉細胞のインスリン受容体に結合すると、GLUT4が細胞膜へと移動し、細胞の外と内を通すトンネルができて、ここを通ってグルコースが細胞内に入ります。

したがって、インスリンが分泌されないことには、GLUT4が細胞膜に移動しないので、筋肉細胞がグルコースを取り込めません。

でも、インスリンの分泌以外にも、GLUT4を細胞膜に移動させる手段があります。

それは、運動です。

運動による刺激でもGLUT4は活性化されて細胞膜まで移動し、グルコースが通過するトンネルを作ります。糖尿病の方に食後の運動をすすめるのは、GLUT4を活性化させて血糖を筋肉に取り込ませる意味があったんですね。

ここから再び妄想です。

GLUT4はインスリンと運動によって細胞膜まで移動します。

しかし、インスリンによる刺激は血中のグルコース濃度が高い場合にそれを下げるのが目的であり、運動による刺激は消費した筋肉内のグリコーゲンを再貯蔵することが目的なのではないでしょうか?両者は同じ働きをしていますが、実は異なる目的を持って血糖を筋肉に取り込んでいるように思います。

このように妄想すると、血糖の管理はすい臓に一元化されていると考えても辻褄が合います。

血糖の上昇はグルカゴン、血糖の低下はインスリン、両者の産生と分泌を抑制するのがソマトスタチン。

うまい具合に3者の役割が分担されているのに気づきます。

そして、インスリン以外のアドレナリンや成長モルモンといった血糖値を上げるホルモンは運動時によく分泌されるのですから、運動によって消費された筋肉のグリコーゲン貯蔵が主たる目的のように思います。

ただの妄想ですが。

参考文献