ある雑誌に管理栄養士の方のコラムが掲載されていたので読んでみることに。
すると「ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源」と述べられていました。相も変わらず、こんな嘘をいつまで流布し続けるのでしょうか?脳はケトン体もエネルギー源にしています。だから、砂糖を摂取する必要はないのですが、そのコラムでは砂糖は大切だと書かれているんですよね。
なぜ、こんな間違った情報をいつまでも発信し続けるのかなと疑問に思っていたのですが、どうやら、現代栄養学がまだまだ未熟な学問だというのが、その原因の一つのように思えます。
日本人の食事摂取基準は確率論を採用している
厚生労働省が、5年に1回改訂して公表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」は、「健康な個人並びに集団を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を示す」ことを策定方針にしています。
簡単に言うと、健康を維持できる食事を国民に教えているということですね。
各栄養素の1日の推奨量や目標量などが記されており、毎日の食事でそれを守っていれば健康に生きていけるのでしょう。でも、日本人の食事摂取基準に記されている栄養素の摂取量は、各栄養素が体の中でどのように利用されてどれだけ消費されるかを研究したものではありません。
それに気づいたのは、栄養学博士の川島由起子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」を読んでいる時でした。
エネルギーおよび栄養素の「真の」望ましい摂取量は、個人により異なり、個人内でも変動があるため、「食事摂取基準」では、確率論的な考え方を採用しています。(17ページ)
この一文を読んだ時、1日に摂取しなければならない栄養素は科学的に定められたものではないのだとわかりました。
そこで、厚生労働省のホームページから「日本人の食事摂取基準(2015年版)」をダウンロードして読んでみると、「策定方針」のところで以下のように述べられていました。
また、科学的根拠に基づく策定を行うことを基本とし、現時点で根拠は十分ではないが重要な課題については、今後、実践や研究を推進していくことで、根拠の集積を図る必要があることから、研究課題の整理も行うこととした。
これを読むと、日本人の食事摂取基準は科学的根拠よりも、統計的な方法で栄養素の摂取量を定めていることが分かります。そして、管理栄養士や医師等保健医療関係者は、国民の栄養評価・栄養管理の標準化と質の向上のためにこれを有効活用することになっています。
栄養素の摂取量も確立や統計で決まったもの
管理栄養士が、日本人の食事摂取基準を基に栄養指導を行うということは、指導される側は、「他の人たちは野菜をたくさん食べていますから、あなたも野菜をたくさん食べましょうね」と言われているのと同じでしょう。確率や統計で決まった摂取基準なのですから。
摂取すべき栄養素の指標には、目安量や推奨量などたくさんありますが、それらがどのような意味を持っているのかを知ると、さらに多くの疑問がわいてくるはずです。以下に「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に記載されている栄養素の指標を抜粋します。
- 推定平均必要量
- ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき、母集団(例えば、30~49 歳の男性)における必要量の平均値の推定値を示すものとして「推定平均必要量」を定義する。つまり、当該集団に属する50% の人が必要量を満たす(同時に、50% の人が必要量を満たさない)と推定される摂取量として定義される。
- 推奨量
- ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき、母集団に属するほとんどの人(97~98%)が充足している量として「推奨量」を定義する。推奨量は、推定平均必要量が与えられる栄養素に対して設定され、推定平均必要量を用いて算出される。
- 目安量
- 特定の集団における、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量として「目安量」を定義する。十分な科学的根拠が得られず「推定平均必要量」が算定できない場合に算定するものとする。実際には、特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量として与えられる。基本的には、健康な多数の人を対象として、栄養素摂取量を観察した疫学的研究によって得られる。
- 耐容上限量
- 健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量として「耐容上限量」を定義する。これを超えて摂取すると、過剰摂取によって生じる潜在的な健康障害のリスクが高まると考える。
- 目標量
- 生活習慣病の予防を目的として、特定の集団において、その疾患のリスクや、その代理指標となる生体指標の値が低くなると考えられる栄養状態が達成できる量として算定し、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量として「目標量」を設定する。これは、疫学研究によって得られた知見を中心とし、実験栄養学的な研究による知見を加味して策定されるものである。
これらの栄養素の指標を読むと、現代日本人が平均的に摂取している量を基準にしていることが分かります。
「日本人の食事摂取基準」は、5年に1回見直されますから、その5年の間に日本人の食生活が一変すると、栄養素の各指標の摂取量も変わってくるはずです。例えば、2010年版では成人男性の塩分摂取の目標量は9.0グラム未満、成人女性の場合は7.5グラム未満でした。それが、2015年版では、男性8.0グラム未満、女性7.0グラム未満に変更されています。
他にも2010年版と2015年版を比較すると、摂取量が変わっている栄養素があります。
摂取量が変わった栄養素は、現代日本人の平均的な摂取量に変化があったということなのでしょうね。このような方法で導き出された摂取すべき栄養素の量なのですから、過信は禁物です。
日本人の平均寿命くらいは生きられる?
とは言え、確率論的に導き出された栄養素の摂取量でも、まったく意味がないわけではないでしょう。
事故や事件に巻き込まれることがなければ、日本人の食事摂取基準に従って栄養素を補給していれば、日本人の平均寿命程度まで長生きできそうですからね。現在では、日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えていますから、80歳程度までは、食事摂取基準を守っていれば生きられるのかもしれません。
でも、人間の本来の寿命は120歳と言われていますから、まだまだ40年程度平均寿命が短いのですが。
管理栄養士の方が、日本人の食事摂取基準を基に栄養指導をしている場合、全てを鵜呑みにすべきではないでしょう。指導に従う場合でも、食事内容は確率論によって導き出されたものだから、科学的根拠がないかもしれないと疑う姿勢は持っておいた方が無難です。
なお、この記事で紹介した「カラー図解 栄養の基本がわかる事典」は、栄養学の基礎を学ぶのに非常に役立ちます。
分子遺伝学や細胞生物学の基本的な内容も載っており、糖質、脂質、タンパク質の三大栄養素が、体内でどのようにしてアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーになるのかも図でわかりやすく解説されています。この図を眺めていると、人間は糖質を摂取しなくても問題ないということが分かりますね。
また、ブドウ糖が通常は脳のエネルギー源になるといった記述がありますが、糖質が不足すると脳はケトン体もエネルギー源として利用できることも解説されています。
栄養学のことを最初から学んでみたいという方におすすめです。