タンパク質は加熱すると吸収が悪くなるのか?

タンパク質は加熱すると吸収が悪くなると聞いたことはないでしょうか?

目玉焼きは黄身が完全に固まるまで焼くよりも半熟が良い。ステーキの焼き加減はウェルダンよりもレアが良い。

私は、過去にこのようなことを聞いたことがあります。タンパク質は加熱すると変性するから、消化吸収に手間がかかるらしいのです。だから、肉でも魚でも焼きすぎない方がタンパク質を補給しやすいのだとか。

タンパク質の変性は機能を失うこと

まず最初に知っておかないといけないのは、タンパク質の変性とはどういうことなのかです。

生卵をフライパンの上に乗せて加熱すると目玉焼きができます。生卵の時は白身が透明だったのに火を加えると固まって白くなります。これがタンパク質の変性の代表例です。

タンパク質は、20種類のアミノ酸の結合ですが、ただ横に並んでいるわけではありません。タンパク質が何らかの機能を有するためには、アミノ酸の結合が三次構造や四次構造といった立体構造になっていないといけません。

卵白を加熱すると白くなるのは、タンパク質の三次構造が熱によって破壊され、お互いにくっつきあい固まるからです。これがタンパク質の変性です。加熱した卵白のようにタンパク質が形を変えると、それまで有していた機能を失います。つまり、変性とは、タンパク質が変形して機能を失うことなのです。

紙風船は、膨らんでいる状態だと宙に浮かしたり、相手にパスしたりして遊ぶことができます。でも、踏んづけてパンクさせると遊ぶことができません。タンパク質の変性も、これと同じですね。

変性してもアミノ酸組成は変わらない

では、変性したタンパク質を食べると何か不都合があるのでしょうか?

先に答えを言うと、何も不都合はありません。医学博士の武村政春先生の著書「たんぱく質入門」を読んで知ったのですが、タンパク質を構成するアミノ酸の組成は変性の前後で変わらないようなのです。

変性は、”高次”構造上の変化の帰結としての失活だから、通常、熱による変性などの場合、アミノ酸配列上で変化が起きることはない。一時構造は変化しないのである。
だから、食品を熱で加工しても、そのたんぱく質の栄養価が下がってしまうことはない。アミノ酸の組成(そのたんぱく質中の、それぞれのアミノ酸が含まれる割合)は変わらないからだ。(43~44ページ)

むしろ、タンパク質は過熱して変性させておいた方が、消化酵素のペプシンやトリプシンなどの作用を受けやすくなるとのことですから、肉や魚を生で食べるよりも加熱した方が消化に良さそうです。

さらに同書には、興味深い記述があります。

私たち「食べる側」にとってみると、食品中のたんぱく質には、その食品が生物として生きていたときに発揮していたはたらきを、そのまま持ち込んでほしくないわけである。あくまでも食品だから、アミノ酸組成さえそのままで、おとなしく一列に並んでいてくれさえすればそれでよいのである。(47~48ページ)

酵素ドリンクが健康に良いとかなんとか言われていますが、武村先生の文章を読むと、タンパク質である酵素がその機能を維持したまま体内に持ち込まれると不都合が起こるかもしれないですよね。でも、酵素は胃酸で変性して機能を失い、消化酵素のペプシンやトリプシンによって細かくアミノ酸まで分解されるので、酵素が持っていた機能が体内に入るおそれはないでしょう。

タンパク質は加熱すると消化吸収が悪くなるのかについてですが、これはあまり気にする必要がなさそうですね。タンパク質を食べることはアミノ酸を補給することです。そして、タンパク質は変性してもアミノ酸組成が変化しない以上、加熱の前後でタンパク質としての栄養価も変化しませんから、加熱するかどうかは食べる人が自由に決めれば良いとなりそうです。

ただ、食中毒の危険がありますから、肉、魚、卵を食べる時は加熱した方が安全でしょう。

参考文献