インスリン分泌が保たれていない状況では血糖量とケトン体濃度はどうなるんだろう

すい臓のβ細胞から分泌されるインスリンは、肥満ホルモンと呼ばれることがあります。インスリンが分泌されると、血糖(ブドウ糖)が脂肪組織に取り込まれて、中性脂肪として蓄えられるのがその由来です。

それなら、インスリンが分泌されなければ肥満にならずに済むのですが、インスリンがなければ上がった血糖値を下げることができなくなるので、高血糖の状態が持続してしまいます。インスリン分泌が保たれていない状態が糖尿病と呼ばれる病気ですから、人間にとってインスリンは必要なものだということがわかります。

インスリンは中性脂肪の分解を抑制する

インスリンは、血糖を脂肪組織に蓄えるだけでなく、中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解するホルモン感受性リパーゼの働きを抑制します。つまり、インスリンは血糖を中性脂肪に変えて脂肪組織に取り込むだけでなく、中性脂肪の分解も抑えるホルモンなのです。

インスリンが分泌されていない状況なら、ホルモン感受性リパーゼが活発に働いているので、中性脂肪の分解産物である脂肪酸が血中に放り込まれます。血中に放り込まれた脂肪酸は、遊離脂肪酸と呼ばれます。そして、遊離脂肪酸を受け取った各組織は、それをエネルギー利用します。

したがって、中性脂肪を増やさないだけでなく、減らすためにも、肥満の予防や解消にはインスリンの分泌が少ない方が良いとなります。

高血糖でインスリンが分泌されないと

糖尿病になってインスリンの分泌量が減ると、血糖値を下げることができなくなるので、食事で炭水化物(糖質)を摂取した場合や、アドレナリン、グルカゴンなどの血糖値を上げるホルモンが分泌された場合に高血糖が持続します。

でも、インスリンが分泌されなければ、血糖が脂肪組織に取り込まれないので太りにくくなります。加えて、ホルモン感受性リパーゼの働きも抑制されないので中性脂肪の分解が進みます。

中性脂肪の分解産物である脂肪酸は、各組織でβ酸化が行われてアセチルCoA(コーエー)となり、細胞が持つミトコンドリアでエネルギーが取り出されます。また、肝臓では脂肪酸のβ酸化が亢進するとアセチルCoAが余るので、これをケトン体に変換して血中に流し、肝臓以外の組織でアセチルCoAに戻しミトコンドリアでエネルギーが取り出されます。

すい臓のβ細胞に問題がなく、インスリン分泌が保たれている人は、高血糖になると速やかにインスリンが分泌されるので、血糖が脂肪組織に取り込まれます。同時にホルモン感受性リパーゼの働きも抑制するので血中の遊離脂肪酸濃度が高くなることもありませんし、ケトン体濃度が高まることもありません。

つまり、インスリン分泌が保たれている状況では、高血糖と高ケトンが同時に起こることはないんですね。

ところが、糖尿病になると、インスリンが分泌されないので高血糖状態が持続し、しかも、ホルモン感受性リパーゼが働き続けるので中性脂肪の分解が進み、肝臓ではケトン体合成が活発に行われます。すなわち、本来起こることのない高血糖かつ高ケトンという状態が、インスリン分泌が損なわれると発生するのです。

糖尿病性ケトアシドーシス

ケトン体は、酸性の物質なので血中に多く存在すると血液が酸性に傾き、様々な不調を起こします。この血液が酸性に傾き体調が悪くなることをアシドーシスといい、糖尿病の方が高ケトンでアシドーシスになる場合を糖尿病性ケトアシドーシスといいます。

ケトン体が酸性だから、ケトン体濃度を上げないようにすることが糖尿病性ケトアシドーシスの予防には大切だとされていますが、これってどうなんでしょうね?

インスリン分泌が保たれている健康な人は、糖質制限をしてケトン体濃度が高まってもアシドーシスにはなりません。ケトン体を速やかにエネルギー利用しているからでしょう。ところが、糖尿病の方がケトアシドーシスになるのは、高血糖かつ高ケトンの状態になった時ですから、このような状況になることが問題だと思うんですよね。血糖値が高い状況でケトン体が血中に放り込まれると、血管内が渋滞しそうです。血管内が渋滞すればケトン体の流れも悪くなるでしょうから、いつまでもケトン体が血中に残り、血液が酸性に傾いてしまうのではないでしょうか?

糖尿病性ケトアシドーシスは、ケトン体が原因ではなく、インスリン分泌が保たれていない状況での高血糖が惹き起こしていると考えるのが自然だと思います。それなら血糖値を上げないようにすることが大切ですし、血糖値が上がった場合には速やかに下げることが大切です。

産科医の宗田哲男先生の著書「ケトン体が人類を救う」で、糖尿病性ケトアシドーシスは、「インスリン不足高血糖制御不能状態」だと述べられていますが、まさにこの通りでしょう。

アドレナリンやグルカゴンなどの血糖値を上げるホルモンが分泌されても、インスリン分泌がほとんどない1型糖尿病の方は高血糖になり、糖尿病性ケトアシドーシスになる危険があります。なので、1型糖尿病の方は、どうしてもインスリンの投与に頼らざるを得ない状況が起こります。

インスリンは肥満ホルモンと言われていますが、生きていくために必ず必要なホルモンです。だから、すい臓のβ細胞に負担をかけてインスリン分泌が損なわれるような食生活は避けた方が良いですね。

参考文献