無酸素下で運動をする場合は乳酸発酵が行われる

人間の細胞は、グルコース(ブドウ糖)からアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギーを獲得する場合、まず細胞質内の解糖系でグルコースからピルビン酸を作ります。

ピルビン酸は、酸素が十分に供給されている場合は、ミトコンドリアに送られて大量のATP産生の材料となります。しかし、酸素が十分にない状況だとピルビン酸は発酵され乳酸となります。

乳酸発酵で解糖系を続けられる

酸素がない状況でピルビン酸が発酵されて乳酸になると、解糖系を続けることができます。

解糖系では、2分子のATPを獲得できます。

酸素がない状況で乳酸発酵が行われると、解糖系の6段階目で必要となるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型(NAD⁺)を獲得できます。このNAD⁺を再び解糖系の6段階目に投入することで解糖系を続けることが可能となるのです。

解糖系では、2分子のATP、2分子のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型(NADH+H⁺)、2分子のピルビン酸が作り出されます。

酸素がない状況では、ピルビン酸はNADH+H⁺から電子を受け取って還元され乳酸となります。この時、NADH+H⁺は電子を失うのでNAD⁺に酸化されます。そして、NAD⁺は再び解糖系に投入され還元されてNADH+H⁺となります。さらにNADH+H⁺は、酸素が十分に利用できない状況で乳酸発酵に使われNAD⁺となります。

つまり、酸素がない状況では、

NADH+H⁺→NAD⁺→NADH+H⁺→NAD⁺→NADH+H⁺→NAD⁺→・・・

という反応が繰り返し起こるんですね。

以上の説明を簡略化した図で示すと以下のようになります。

乳酸発酵のイメージ

無酸素運動では乳酸が多く発生する

乳酸発酵が起こるのは、細胞に酸素が十分に供給されない時です。

では、細胞に酸素が十分に供給されない時とは、どんな場合でしょうか?

最も身近なのは、筋トレや全速力などの無酸素運動をしている時です。

全速力を例にすると、思いっきり走っている時は酸素を吸っても筋肉への酸素供給が追い付きません。筋収縮には大量のATPを必要としますが、酸素供給が追い付かないのでミトコンドリアでのATP産生が厳しくなります。そこで、筋細胞は無酸素下でも、その機能を維持できるようにATP産生を乳酸発酵に切り替えます。

乳酸発酵に切り替わると解糖系を続けられるので、2分子と少ないながらもATPを作ることができます。この解糖系で得られた2分子のATPを使うから、無酸素下でも運動が可能となるわけですね。

コリ回路と糖新生

無酸素下で筋肉を動かし続けていると、乳酸発酵が進むので、筋肉中に乳酸が溜まってきます。

乳酸が蓄積すると、細胞の機能が低下し筋肉がけいれんを起こしますから、いつまでも無酸素運動を続けることはできません。

では、筋肉に溜まった乳酸はどうなるのでしょうか?

この場合、乳酸は血流にのって肝臓へと送られます。肝臓には、酸素が十分にあるので乳酸はピルビン酸に戻されます。さらに肝臓ではピルビン酸を糖新生に利用できるので、ピルビン酸からグルコースを作ることも可能です。

解糖系では1分子のグルコースから2分子のピルビン酸を合成しましたが、糖新生では2分子のピルビン酸から1分子のグルコースを合成します。

このような乳酸からグルコースを合成する仕組みをコリ回路といいます。

乳酸からグルコースを作り出せるのなら、グルコース→ピルビン酸→乳酸→グルコースという反応を延々と続けていれば、無限に解糖系で2分子のATPを獲得し続けられるのではないか?

もしも、そうなら砂糖を少し舐めれば、いつまでも筋トレをできるぞと考えてしまいそうですが、そう上手くはいきません。

肝臓で乳酸からグルコースを合成するまでに6分子のATPを消費します。したがって、解糖系で得た2分子のATPから糖新生で消費した6分子のATPを差引くと、ATPは4分子マイナスとなります。

このように収支計算をすると、解糖系依存では、いずれエネルギーが枯渇しそうです。

人間が酸素を吸わないと生きていけないのは、解糖系と乳酸発酵を繰り返しても十分量のエネルギーを獲得できないからなんですね。

参考文献