細胞死にはネクローシスとアポトーシスがある

人間の体は、無数の細胞で構成されています。そして、人間に死があるように細胞にも死があります。

人間の死には、自らの意思とは関係なく事故や病気によって死ぬ場合と自ら死を選ぶ自殺がありますが、細胞死も同じです。自らの意思とは関係なく死ぬことをネクローシス、自殺することをアポトーシスと言います。

ネクローシスによる細胞死は、こけた時に膝をすりむくとか、病原体に感染するとかして起こります。何らかの要因で細胞が壊されるのがネクローシスですね。一方のアポトーシスは、勝手に細胞が死んでしまいます。なんで細胞は自殺するんでしょうね。

ネクローシスとアポトーシスの比較

講談社から出版されている「カラー図解 アメリカ版大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学」で、ネクローシスとアポトーシスの比較表が掲載されているので、その内容を紹介します。

ネクローシス アポトーシス
低酸素、毒、ATP枯渇、損傷 刺激 特異的、遺伝的にプログラムされた生理的なシグナル
不要 ATP要求性 必要
膨張、小器官の崩壊、組織死 細胞内様式 クロマチン凝縮、膜プレブ形勢、単細胞死
無作為な断片 DNA分解 ヌクレオソーム単位の断片
破裂 細胞膜 プレブ形勢
白血球による貪食 死細胞の運命 隣接細胞による取り込み
(白血球による貪食もある)
炎症あり 組織の反応 炎症なし

いろいろと難しい言葉が並んでいますが、知っておくべきことは、一番下の「組織の反応」のところです。ネクローシスは炎症があり、アポトーシスは炎症がありません。

こけて膝をすりむいた時に炎症を起こしますよね。頬を叩かれた時は腫れますが、あれも炎症ですよね。つまり、細胞がネクローシスによって死ぬと、赤く腫れるような炎症を起こすんですね。

一方のアポトーシスは、炎症を起こしませんから、ビンタされた時のように赤く腫れあがることはありません。

アポトーシスを開始する理由

ネクローシスは、叩かれるとか、細菌やウィルスに感染するとか、予期せぬ事象で起こる細胞死です。言い方を変えると、死ぬ必要がないのに死んでしまうことがネクローシスです。

一方のアポトーシスは、遺伝的なプログラムによって開始する細胞死です。細胞がアポトーシスを開始するのは以下の理由からだと考えられています。

  • 細胞がもはや生体から必要とされなくなった場合、例えば、出生前、ヒトの胎児は、指と指のあいだに結合組織であるみずかきがある。発達するにつれ、細胞はアポトーシスを起こし、この不必要な組織は消えていく
  • 細胞がより長く生きれば生きるほど、癌になるような遺伝子損傷を受ける可能性がある。このことは、有害物質に曝されやすい血液や腸の上皮層組織の細胞の場合、特にそうである。正常な場合は、このような細胞は数日または数週間で死ぬ(72ページ)

つまり、アポトーシスは、その細胞が不要になったり、癌になるのを避けるために開始されるということですね。

不要になって細胞が死ぬ場合は、それで問題は起こらないでしょう。でも、必要な細胞が癌になるのを防止するためにアポトーシスを開始すると、身体を構成する細胞が徐々に減っていきますよね。

しかし、心配ご無用。なぜなら、死ぬ細胞を補充するために細胞分裂が行われているからです。すなわち、細胞分裂で増殖する細胞の数とアポトーシスで減る細胞の数はバランスが取れているのです。

糖尿病はネクローシスだよね

ネクローシスとアポトーシスについて、簡単に理解できたところで糖尿病について考えてみましょう。

糖尿病は、すい臓にあるβ細胞が壊れていき、インスリンの分泌量が減っていく病気です。インスリンは血糖値を下げる働きをしますが、糖尿病になるとβ細胞が減るので、血糖値を下げにくくなり高血糖の状態が持続します。

高血糖が持続すると様々な合併症を引き起こすので、糖尿病の方は血糖コントロールがとても大切になります。

ところで、糖尿病の方のβ細胞の死は、ネクローシスでしょうか、アポトーシスでしょうか?

以下のウェブサイトでは、「膵β細胞の減少を引き起こすとされている炎症と小胞体ストレス」という文言が出てくるので、糖尿病になると、β細胞がネクローシスしていると解釈できます。

β細胞の死がアポトーシスであれば、細胞分裂による増殖とアポトーシスによる減少が釣り合うので、β細胞が減っていくことはありませんよね。

糖尿病が不治の病と言われているのは、β細胞が不慮の事故でネクローシスして減っていくからでしょう。β細胞も、トカゲのしっぽみたいに切っても切っても生えてくるのであれば、ネクローシスしても問題ないのでしょうが、どうもそうではなさそうです。

人間が指を切断すると生えてこないのと同じようにβ細胞も壊してしまうと再生できないのでしょうね。

上のウェブサイトでは、「肥満にともなう脂肪酸代謝の異常や臓器における脂肪酸の過剰蓄積」が糖尿病の原因と書かれています。糖質の過剰摂取が脂肪の蓄積の原因ですから、糖尿病を予防するために糖質制限が有効だと気付きますよね。

参考文献