年を取ると物覚えが悪くなるもの。
何年も会っていない人の名前が出てこないことは仕方ないでしょうが、テレビでよく見る芸能人の名前がすぐに思い出せないと、もしかしたらアルツハイマー病などの認知症になっているのではないかと不安になりませんか?
健康番組を見ていると、記憶力のチェックテストみたいなことをやっていて、何個以下しか正解できないと認知症の危険があると脅してきます。
でもね。何でも1回見たり聞いたりしただけで覚えられるのなら、誰だって東大に合格できますよ。中学生や高校生のときだって、1回で暗記なんかできなかったのですから、健康番組を見て一喜一憂することはないでしょう。
かつてはアルツハイマー病にかかると進行していくだけだと悲嘆するしかありませんでしたが、最近では、食事制限でアルツハイマー病の進行を抑えられるのではないかという研究結果も出ていますから以前ほどは悲観しなくても良さそうです。
インスリン抵抗性がアミロイドβを蓄積する
アルツハイマー病は、脳にアミロイドβと呼ばれるタンパク質が蓄積することで発症すると言われています。これが本当であれば、アミロイドβが蓄積しないようにすることがアルツハイマー病の予防になると考えられます。
2019年4月12日の以下のプレスリリースによれば、食事制限でアミロイドβの蓄積を減少させることができると研究で明らかになったようです。
2型糖尿病になると、アルツハイマー病にかかりやすいと言われています。2型糖尿病は、食生活の乱れで血糖値が高くなる病気とされていますが、血糖値が下がらない原因にはインスリン抵抗性とインスリン分泌不全があります。
この中でアルツハイマー病を発症しやすいのは、インスリン抵抗性を原因とする2型糖尿病です。
糖質を食べると血糖値が上がります。上がった血糖値は、すい臓のβ細胞からインスリンが分泌されて、血糖(ブドウ糖)が脂肪組織や筋肉に取り込まれることで下がります。インスリンの分泌量が減ってしまうのがインスリン分泌不全です。一方、しっかりとインスリンが出ているのに血糖値が下がらない状態をインスリン抵抗性と言います。
痩せればインスリン抵抗性は改善する
インスリン抵抗性は、多くの場合、痩せれば改善します。
これを別の視点から見ると、太っていて血糖値が高い場合はインスリン抵抗性が惹き起こされていると言えます。
ダイエットをして肥満が解消されていく過程で血糖値が下がって来れば、インスリン抵抗性が改善していると想像できます。
さて、先ほどのプレスリリースには、食事制限でインスリン抵抗性を改善すると脳にアミロイドβが蓄積するのを減少させられると述べられています。
マウスを使った実験ですが、高脂肪食を与えたマウスの脳にはアミロイドβが蓄積しました。でも、高脂肪食から普通食に戻すと、若干アミロイドβの蓄積が減少します。高脂肪食からカロリー制限に切り替えると、アミロイドβの減少が著しく、食事制限でアルツハイマー病の進行を抑えられるのではないかと想像できます。
脂質制限が有効なのか?
高脂肪食から、普通食やカロリー制限食に切り替えるとアミロイドβの蓄積が減少したのなら、アルツハイマー病の予防には脂質制限が大切だと考えられそうです。
でも、これは短絡的な発想でしょう。
インスリン抵抗性の裏には、高インスリン血症があります。つまり、インスリンが効きにくい状態は、血液中に多くのインスリンが存在する状態です。これこそが、アミロイドβの蓄積に深くかかわっているわけです。
アミロイドβの分解にはインスリン分解酵素が使われます。しかし、高インスリン血症の状態では、インスリンの分解にインスリン分解酵素が使われてしまうので、アミロイドβの分解が疎かになります。アミロイドβが分解されないと蓄積量が増えていくでしょうから、高インスリン血症を放置することがアミロイドβの増加につながっていると考えられます。
したがって、インスリン抵抗性がアミロイドβを蓄積させていると言うよりは、高インスリン血症がアミロイドβの分解を阻害していると言った方が、アルツハイマー病の真実に近いはずです。
そうすると、脂質制限がアミロイドβの蓄積を防ぐとは言えません。なぜなら、脂質を食べてもインスリンの追加分泌が起こらず高インスリン血症にならないからです。
そして、高インスリン血症を防ぐためには、血糖値を上げてインスリンの追加分泌を促す糖質摂取を控えることが大切です。早い話が糖質制限ですよ。
今回の話は、すでに以下の記事でも紹介しています。
「肥満が生活習慣病の原因になりやすいから、脂質制限やカロリー制限をしましょう」と言っている限りは、2型糖尿病もアルツハイマー病も予防できないでしょうね。