感染症の予防は、常に身体を清潔に保つことが大切と言われています。
確かに泥だらけの手で掴んだ食べ物を口の中に入れると、病原体まで一緒に体内に入って来るので、感染症にかかりやすくなるでしょう。しかし、蛇口をひねれば、いくらでもきれいな水を使える現代日本で、泥んこの手で食べ物を掴むことなど、ほぼありえません。
むしろ、清潔にしすぎて感染症にかかりやすい体を作っている人の方が多いでしょうね。
清潔にしすぎて食中毒になる
藤田紘一郎先生の著書「手を洗いしすぎてはいけない」は、感染症の予防に役立つ情報がわかりやすく解説されています。感染症を恐れている人は、一読することをおすすめします。
90年代に病原性大腸菌O157が集団発生したことがありました。O157は、それほど毒性の強い細菌ではなかったのに多くの人が感染し苦しい思いをしました。
O157は、赤痢菌と共生していたウィルスと親密な関係を結び、赤痢菌の毒素産生が促されるように変形したそうです。
でも、O157は、土壌で育てられた野菜に付着していても、土壌菌がそこにいるので簡単に排除されます。だから、それほど感染を恐れることはありません。ただ、水耕栽培の野菜は、無菌状態が保たれているので、何らかの形で野菜にO157が付着すると繁殖してしまい、それを食べると食中毒を起こす危険があります。
しかし、O157が付着した食べ物を食べて、重症化する子供がいた一方で、無症状だった子供もいました。両者の違いは、どれだけ清潔にしていたかによるものだったそうです。
重症化した子供たちは「超」がつくほどの清潔志向の家庭に育っており、無症状の子供たちは親がほどよく放任で、毎日真っ黒になって外を駆け回り、「バッチイ遊び」をしていたということです。
O157は、無菌状態で繁殖しやすくなるのですから、日ごろから洗剤、抗菌スプレー、消毒剤を多用していれば、彼らにとって天敵がいなくなるのでパラダイスです。一方、外で遊んでいる子供たちは、多くの土壌菌を体内に入れているので、O157が侵入してきても増殖する隙を与えませんから、症状が出ることがなかったんですね。
外遊びをたくさんする子は、空気中を舞う土壌菌を自然と吸い込んでいますから、腸内フローラが豊かに育まれます。O157はヤワな菌なので、腸内細菌が多種多様にすんでいる腸のなかでは増殖できません。抗菌薬の乱用など超清潔志向によって作られた「空き家」の多くなった腸でのみ、増殖できるのです。(100ページ)
ファイアウォールなしでネット接続しているようなもの
新型コロナウィルスの影響で、多くの人が、洗剤や消毒液を手につけるようになっています。
しかし、それが感染症に弱い身体を作っているのですから、感染予防にはなりません。
確かに消毒液を手に付ければ、その瞬間は手に付着していた細菌やウィルスを除去できます。でも、その効果は、一時的なものです。手にコロナウィルスがついていなければ無駄な行為でしかありません。それどころか、その後のしばらくの時間は細菌やウィルスに感染しやすい状態になっているのですから、逆効果と言えます。
我々の皮膚には、皮膚常在菌が棲んでいます。彼らは、皮膚表面を弱酸性に保ち、外敵が攻めてくるのを守ってくれています。タンパク質は酸に弱く、そして、ウィルスもタンパク質なので、皮膚が弱酸性に保たれていることはファイアウォールが有効に機能し、ウィルスを排除できる体制が整っていることを意味します。
ところが、洗剤や消毒液を手につけると、皮膚常在菌がいなくなってしまいますから、皮膚表面が弱酸性に保たれにくくなります。これは、つまり、インターネットに接続するときに一時的にファイアウォールをオフにしている状態と同じなのです。
入浴後、皮膚常在菌が元に戻るのに半日くらいかかると言われています。頻繁に消毒していれば、皮膚常在菌が回復する時間が保たれないので、長時間にわたってファイアウォールが機能していない状態が続きます。
コンピュータウィルスを駆除するたびにファイアウォールがオフになるセキュリティソフトなんていらないですよね。
それと同じで、一時的な殺菌や抗ウィルス効果のために洗剤や消毒液を手につけるのは愚策です。
手は流水で軽く洗うだけで十分きれいになります。ウィルスだって流れていきますよ。
洗剤でゴシゴシこすらないと落ちないウィルスなんて飛散しようがないのですから、体内に入りようがないですし、他人に移す可能性もないでしょう。
簡単に飛散するから、ウィルスは怖いんじゃないですか?