果糖が太りやすいのは解糖系でホスホフルクトキナーゼ1の調節を受けないから

かつては、脂質を摂取すると肥満すると言われていましたが、現在では糖質の方が太りやすいと言われるようになり、糖質摂取量を減らすことが肥満の予防や解消に効果的だとされています。

一口に糖質と言っても、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、脳糖(ガラクトース)など多くの種類があります。これらは単糖類に分類されますが、他に二糖類や多糖類といった分類もあります。

糖質の代表的存在はブドウ糖で、体内に入るとエネルギーが取り出されアデノシン三リン酸(ATP)が合成されます。しかし、エネルギー需要を越えてブドウ糖が体内に入ってくると、中性脂肪として蓄えられます。そのため、ブドウ糖は太りやすいのですが、それ以上に太りやすいのが果糖です。

解糖系からクエン酸回路までの流れ

まずは、グルコース(ブドウ糖)からATPが合成されるまでの簡単な流れを抑えておきましょう。

グルコースは、細胞に取り込まれると解糖系に入ります。解糖系に入ったグルコースは、10段階の反応を経てピルビン酸に加工されます。そして、ピルビン酸は、細胞内のミトコンドリアに送られてアセチルCoA(コーエー)となり、アセチルCoAとオキサロ酢酸がくっついてクエン酸になります。

このクエン酸は、様々な反応を経てオキサロ酢酸になりますが、その過程で取り出された電子が電子伝達系と呼ばれるところに送られてATPが合成されます。

クエン酸からオキサロ酢酸になる反応は、クエン酸回路(TCA回路)と呼ばれています。解糖系とクエン酸回路の流れを簡略化したのが以下の図です。

解糖系からTCA回路までの流れ

解糖系で、フルクトース6-リン酸からフルクトース1,6ビスリン酸を合成する際にホスホフルクトキナーゼ1(PFK1)という酵素が働きます。PFK1は、ATPが十分にある状況では、その働きが阻害され、解糖系の反応が緩やかになります。

解糖系で合成されたピルビン酸がミトコンドリアに送られてアセチルCoAに加工されても、クエン酸回路が渋滞していればアセチルCoAは脂肪酸合成に回ります。だから、グルコース(ブドウ糖)を摂りすぎると太るわけですが、ATPが多くある場合にはPFK1の働きが阻害されて解糖系の反応が抑制されるので、ある程度は脂肪酸合成を抑えられます。

フルクトースにはブレーキが効かない

果糖(フルクトース)は、解糖系に入るスタートラインがグルコースと異なっています。

フルクトースは、フルクトース1-リン酸に変換されて解糖系に入ります。そして、フルクトース1-リン酸から、グリセルアルデヒドとジヒドロキシアセトンリン酸が合成され、その後の流れはグルコースが解糖系に入った場合と同じです。

しかし、フルクトースはグルコースとスタートラインが違うので、ATPが多い時にPFK1の働きが阻害されても、フルクトース1-リン酸に変換されて次々に解糖系の中に入ってきます。つまり、フルクトースにはブレーキが効かないのです。

エネルギー需要に応えるだけのATPが作られていれば、解糖系に入ったフルクトースから合成された産物は余計です。そのため、フルクトースから合成されたピルビン酸はアセチルCoAを経て脂肪酸となります。また、フルクトース1-リン酸から合成されたジヒドロキシアセトンリン酸の一部は、グリセロール3-リン酸となります。

そして、グリセロール3-リン酸と脂肪酸が合体してトリアシルグリセロール(中性脂肪)が合成されます

以上の流れを図示すると以下のようになります。

フルクトースが解糖系に入る流れ

果糖は肝臓で中性脂肪になる

糖質が体内に入り、細胞に取り込まれるためには細胞膜に特別な輸送体が発現しなければなりません。

例えば、筋肉と脂肪組織の細胞の場合は、GLUT4と呼ばれる輸送体が発現します。GLUT4はトンネルのようなもので、血中のグルコースは、そこを通って細胞内に入ります。ちなみにGLUT4を発現させるためには、すい臓からインスリンを分泌させなければなりません。血糖値が上がればインスリンが多く分泌され、血中のグルコースが筋肉や脂肪組織に取り込まれ血糖値が下がります。

フルクトース(果糖)の場合はどうでしょうか。

フルクトースを細胞に取り込むための主要な輸送体は、GLUT5です。ところが、多くの細胞にはGLUT5がありません。では、フルクトースはどこに取り込まれるのかというと肝臓です。

肝臓には、多くのGLUT5が発現しており、速やかにフルクトースを取り込んで代謝のために利用できます。しかし、先ほども述べましたが、フルクトースはグルコースとは違う経路で解糖系に入るため、PFK1の調節を受けずにどんどんとピルビン酸に加工されてミトコンドリアに送られていくので、肝臓ではフルクトースは中性脂肪に変換されて蓄えられていきます。

果物はヘルシーなイメージが強いですが、果糖を多く含んでいるため、食べれば中性脂肪が増えやすくなります。また、砂糖(スクロース)は、半分がブドウ糖、半分が果糖ですから、こちらも体に中性脂肪を蓄えやすい食べ物です。

中性脂肪を減らしたいなら、糖質制限は当たり前のことですが、特に果糖の摂取は控えなければなりませんね。

人工甘味料はインスリンを分泌させる?

以上のフルクトースの代謝については、ナヴディープ S.チャンデル先生の「代謝ナビゲーション」という本の99~101ページに書かれていた説明です。

同じ個所には、人工甘味料がインスリン分泌にどのような影響を与えるのかの実験結果についても、興味深い記述があったので紹介しておきます。

フルーツジュースや砂糖によって甘味を加えられた飲料と比較して、ダイエット飲料は糖尿病のリスクを上昇させることが分かった。人工甘味料は体をだまして、まもなく糖分がやって来ると信じさせてしまう。膵臓はインスリンを大量に送りだし、それは肝臓における脂肪のような栄養物の貯蔵を増やすことになる。(101ページ)

甘いものを食べた場合、それがブドウ糖だろうが果糖だろうが人工甘味料だろうが、「甘い」という刺激があれば、すい臓はインスリンをたくさん分泌して脂肪酸合成を促進するということですね。

しかし、この説は怪しいです。

神経内科医のたがしゅう先生が、人工甘味料を摂取した場合の血糖値、インスリン分泌量、グルカゴン分泌量、ケトン体濃度を調べた結果をブログで紹介されています。被験者は、たがしゅう先生と友人の方の2名だけなのでサンプルは少ないです。

上記実験結果を見ると、人工甘味料を摂取しても、大量にインスリンが分泌されてはいません。たがしゅう先生の場合は、インスリン分泌が若干増えていますが、友人の方は不動です。

たがしゅう先生は糖質制限をしていらっしゃいますが、友人の方は実験の前夜に高糖質食を召し上がっています。糖質制限をしていようが、高糖質食を食べていようが、人工甘味料の摂取でインスリンが大量に分泌されるわけではないようです。

肥満ホルモンと呼ばれるインスリンが分泌されないのですから、人工甘味料の摂取が肥満を招きインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性を惹き起こしたり、インスリンの出し過ぎでインスリン分泌が減るといったことは、ちょっと考えにくいですね。つまり、人工甘味料が糖尿病の原因だとは言えないと思います。

とりあえず、肥満の予防や解消には糖質の摂取量を減らすことですよ。特に果糖は、すぐに中性脂肪に変換されるので、ダイエットのためには、砂糖や果物を食べるのを控えるべきです。

まあ、コーヒーや紅茶に少量の砂糖を入れて飲むくらいなら、大きな影響はないでしょうけどね。1日に5杯も6杯も飲むのは別ですが。

参考文献