何をするにしても指標や基準があった方が便利です。
例えば、高校受験や大学受験では、偏差値が指標とされることがありますね。目標とする高校や大学に合格するためには、他の受験生と比較してどれくらいの学力が必要かを数値で知ることができます。偏差値で人の価値が決まるわけではありませんが、合格という目標を達成するための指標としては役立ちます。
ダイエットの場合だと、現代ではカロリー収支が一つの指標とされています。むしろ、カロリー至上主義といった方が良いくらいカロリー理論が正しいと思っている人がとても多いです。でも、カロリー理論は仮説でしかないんですよね。
時系列で追えばカロリー理論に疑問がわく
カロリー理論は、以前に以下の記事で紹介したように19世紀にできました。
人間は、体内でエネルギーを作って活動しています。そのエネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるもので、発見されたのは20世紀になってからです。さらにATP合成の大部分はミトコンドリアで行われていますが、ミトコンドリアの仕組みが分かってきたのも20世紀になってからです。
つまり、19世紀のカロリー理論は、ATPを知らずに組み立てた仮説でしかないのです。それなのに現代でも、カロリー理論をダイエットの絶対的指標としているのですから、肥満で悩む人が減らないのは仕方のないことだと思います。そもそも体内でのエネルギー産生がどのように行われているのかわかる前に組み立てたカロリー理論が、正しいのかどうか疑問がわかない方が不思議です。
上の記事では、形成外科医の夏井睦先生の「炭水化物が人類を滅ぼす」という本を参考にして書きましたが、その続編の「炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】」でもカロリー理論について興味深いことが紹介されています。
カロリー理論の仮説は検証されていない
同書によると、「食物=カロリー」という仮説には以下の2つの誤算があったと述べられています。
- 物理学と生物学の発展のテンポが大きく違っていたこと
- 仮説を誰も検証しなかったこと
「1」の誤算は、19世紀は鉄道や車が走ったり、飛行機が飛ぶための理論が発見されたりと物理学が急速に進歩したのに生物学は物理学よりも発展が遅かったということです。物を動かすための理屈が物理学で解明されると、生物学の世界でも蒸気機関と同じようなことが生体内で起こっていると考えたのでしょうね。
そう考えたのもわからないではないのですが。物を燃やすとエネルギーが発生します。賢い人が、石炭を燃やして得たエネルギーで走る蒸気機関車を見れば、自分の体の中で同じことが起こっていると考えるでしょう。
火を着けると物が燃える燃焼という反応は、その物に含まれる炭素(C)と空気中の酸素(O₂)がくっついて二酸化炭素(CO₂)を発生させます。人間も、酸素(O₂)を吸って二酸化炭素(CO₂)を吐き出していますから、体内で炭素(C)と酸素(O₂)がくっついて二酸化炭素(CO₂)となる燃焼が起こっているはずだと考えても不思議ではありません。
この体内でも燃焼が起こっているという仮説を誰も検証せずに現代にいたっているから、カロリー理論が正しいと思い込んでいる人が多いわけですね。
食事は生命維持のため
カロリー理論が提唱された19世紀には、食物の消化吸収のメカニズムがよくわかっていませんでした。
機関車が石炭を燃やした時に発生するエネルギーで動いているのなら、「体内で食べ物に含まれる炭素を酸素と反応させて二酸化炭素を発生させている人間も、同じように燃焼から得たエネルギーで動いているはずだ」と考えたのでしょう。
しかし、人間が、食事をする目的はエネルギーを得るためだけではなく体作りのためでもありますよね。夏井先生は、食べ物を「機関車を走らせる石炭であるとともに、機関車補修のための材料」とも述べており、現代ではこの考え方が通説となってます。
私たちの体はおよそ37兆個の細胞から構成されるが(以前は60兆個と考えられていたが、最新の研究では37兆個という説が有力)、そのうち、毎日1兆個の細胞が壊されては、新しく作られた細胞に置き換わっている。つまり、人体のあらゆる場所で絶え間ない「スクラップ・アンド・ビルド」が起きていて、そのことによって生命は維持されていたのだ(これが「動的平衡」と呼ばれる現象だ)。(106ページ)
食べたもの全てからエネルギーが取り出されるとは限りませんから、口から入れた全ての食物が潜在的に持つ熱量(カロリー)を合計したところで大した役には立たないでしょう。
食べた食品の内、どれが生命維持に使われ、どれがエネルギー利用されるのか、それを具体的に説明できる人はいないと思いますよ。
カロリー理論が正しいと言うのなら、せめてブドウ糖1グラムから4kcal分のエネルギーを本当に取り出せるのかを計算して欲しいですね。