人間は、主に脂肪酸とブドウ糖(グルコース)をエネルギーとして利用しています。
脂肪酸は中性脂肪という形で体に蓄えられますし、ブドウ糖はグリコーゲンという形で体に蓄えられます。だから、少々、食事間隔が空いても中性脂肪やグリコーゲンを取り崩してエネルギー利用するので、体が動かなくなることはありません。
ブドウ糖は脂肪酸よりもエネルギーを生み出す速度は速いですが、生み出せるエネルギー量は少な目。一方、脂肪酸はブドウ糖よりもエネルギーを生み出すのに時間がかかりますが、その量は非常に多いです。
ブドウ糖と脂肪酸のどちらが主要なエネルギー源なのかは、その人の考え方によって異なります。ブドウ糖を主要なエネルギー源だと言う人もいれば、脂肪酸が主要なエネルギー源だと言う人もいます。でも、エネルギーの貯蔵という点では、人間の体はグリコーゲンではなく中性脂肪を好んでいると言えそうです。
グリコーゲンの貯蔵には4倍の水分が必要
糖質制限ダイエットをする人の多くは、短期間で体重減少効果を実感できます。この理由は、糖質(ブドウ糖)を摂取しないと体に蓄えたグリコーゲンが減るからだと言われることがあります。
ブドウ糖をグリコーゲンとして貯蔵する場合、その4倍の水分が必要です。だから、糖質制限ダイエットでグリコーゲンが減ると、その4倍の水分が失われる計算です。例えば、肝臓には100グラム弱のグリコーゲンを蓄えることができますが、糖質制限ダイエットで肝グリコーゲンが無くなると、約400グラムの水分も失うので、合計約500グラムの体重減少となります。
糖質制限ダイエットは、ただ水分を失うだけだと批判する人がいますが、グリコーゲン貯蔵に必要な水分の減少以上に体重が減少するので、その批判は当てはまりません。また、人体の約60%は水分ですから、単純に考えると減少した体重の60%も水分でなければ痩せた後の水分量60%を維持できません。したがって、どのようなダイエット法を採用したとしても、痩せれば減少した重量の約60%の水分は体外に出てしまうと考えられます。
中性脂肪の貯蔵には同量の水分が必要
では、中性脂肪を体に蓄える場合は、どれくらいの水分が必要なのでしょうか?
環境省の熱中症環境保健マニュアル2008に以下の記述があることから、中性脂肪1グラムの貯蔵には水分が1グラム必要だと考えられます。
概ね筋肉(骨格筋重量)の80%、脂肪(脂肪組織重量)の50%は水分で占められています。(30ページ)
他にも、検索してみると、中性脂肪の10%~30%の水分量が必要と書かれたウェブサイトがいくつかヒットしました。いずれの場合でも、グリコーゲンよりも少ない水分量で中性脂肪は体に蓄えられるようですね。
中性脂肪の貯蔵効率が圧倒的に優秀
さて、冒頭で、「エネルギーの貯蔵という点では、人間の体はグリコーゲンではなく中性脂肪を好んでいると言えそうです」と述べましたが、ここまで読まれた方は、その理由がわかったと思いますが、まだピンとこない方もいると思います。
解説しよう。
今、体重50kgで体脂肪率20%の女性がいたとしましょう。この女性が体に蓄えている中性脂肪は10kgと計算できます。
- 50kg×20%=10kg
10kgの中性脂肪を蓄えるためには10kgの水分が必要になるので、脂肪組織重量は合計20kgとなります。したがって、脂肪組織以外の体重は30kgですね。
アトウォーター係数では、1グラムの脂質の熱量は9kcalですから、中性脂肪10kgは、9万kcalの熱量に相当します。
もしも、9万kcalの熱量をグリコーゲンで蓄えることができたとしたら、いったいどれくらいの重量になるでしょうか?
ブドウ糖の熱量は、アトウォーター係数では1グラム当たり4kcalとされています。したがって、9万kcalの熱量をグリコーゲンで貯蔵すると、その重量は22.5kgにもなります。
- 90,000kcal÷4kcal=22,500グラム=22.5kg
「脂肪組織重量20kgと比較すると2.5kgだけグリコーゲンで貯蔵する方が重くなるのか」
そう思った方は、水分のことを忘れていますよ。
グリコーゲンの貯蔵には、その4倍の水分が必要になることは先ほど述べた通りです。したがって、22.5kgのグリコーゲン貯蔵には、なんと90kgの水分が必要になるのです。
- 22,500グラム×4グラム=90,000グラム=90kg
そして、グリコーゲン22.5kgと水分90kgを合計すると、その重量は112.5kgにもなるのです。
これに先ほど計算した脂肪組織重量以外の重量30kgを加算すると、体重は142.5kgになります。
90万kcalのエネルギーを保存するのに中性脂肪を利用した場合は、たったの50kgで済んだのにグリコーゲンだと3倍近い142.5kgですよ。明らかにエネルギー貯蔵の点では、中性脂肪の方がグリコーゲンよりも効率的なことがわかるでしょう。
仮に中性脂肪の10%の水分が貯蔵に必要とする説だと、グリコーゲンで同量のエネルギーを蓄える場合、体重は157kgとなります。
- 50kg-(50kg×11%)+112.5kg=157kg
グリコーゲンの貯蔵には、その3倍の水分が必要とする説もありますが、その場合でも、9万kcalのエネルギーを貯蔵した場合、体重は120kgとなります。
- 30kg+22.5kg+(22.5kg×3)=120kg
エネルギー貯蔵の視点からは、圧倒的に中性脂肪の方が効率的なことが分かったでしょう。
グリコーゲンは貯蔵に不向きなのですから、ブドウ糖を主要なエネルギー源と考えるのには無理がありますね。
- 体重50kgで体脂肪率が20%
- 体重142.5kgで体脂肪率が0%
あなたは、どちらの体型を望みますか?