人が太る原因の一つが、過剰なインスリン分泌であることは、今や当たり前として知られるようになっています。インスリンは肥満ホルモンとも呼ばれていますから、ダイエットをしたことがある方なら、インスリンという言葉を聞いたことがあるでしょう。
インスリンは、糖質を摂取した時にすい臓からたくさん分泌されます。だから、太りたくなければ、食後のインスリン分泌を減らすために糖質制限をするのが効果的です。
また、インスリン分泌を抑えることは、長生きとも関係しているのではないかとも言われています。肥満は、健康に悪いとよく言われますが、突き詰めていくと、インスリンの過剰分泌が問題と考えられそうです。
過食はオートファジーの働きを抑制する
人の細胞は、飢餓状態になった時、自らの一部を食べて飢餓を乗り切ろうとします。このように細胞が自分の一部を食べることをオートファジーと言います。
オートファジーは、飢餓を乗り切るために働きますが、細胞内のゴミを掃除する働きもしています。もしも、オートファジーがうまく働かなくなると、細胞内にはゴミが蓄積し、細胞死が誘導されると考えられます。細胞の寿命は種類によって様々で、短期間しか生きられないものや神経細胞のように長期間働き続ける細胞もあります。
短期間しか生きられない細胞は、オートファジーが働かなくても、人の生存に大した影響を与えませんが、神経細胞のように長期間働き続ける細胞の場合、オートファジーの作用不全は、生存にとって悪い影響を与えます。
だから、オートファジーによる細胞内浄化は、非常に重要な作用と言えます。
水谷昇先生の著書『細胞が自分を食べるオートファジーの謎』によれば、オートファジーは、飢餓状態になった時に活性化しますが、それは一時的飢餓や軽度の飢餓でも働くそうです。だから、細胞内のゴミを掃除するためには、過食を避けることが大切と考えられます。
インスリン分泌を抑制することでオートファジーは活性化する
線虫、ショウジョウバエ、マウスなどの実験で、少食が長生きに関係しているのではないかと言われるようになりました。カロリーを抑えた食事をさせると、寿命延長効果が確認されたという話はよく知られています。
60%程度のカロリーに抑えるだけでも、オートファジーが誘導され、線虫やマウスの寿命延長効果があると実験で確認されていることから、過食は健康を害すると言えそうです。
ところが、線虫の研究では、カロリー制限をしなくても、インスリンの信号伝達系に欠陥がある変異体は普通に餌を食べていても長生きしたそうです。インスリン分泌は、オートファジーの働きを抑制する作用があるので、インスリン信号伝達に異常があると、オートファジーが亢進します。
先ほども述べましたが、インスリンは、糖質摂取でたくさん分泌されます。我々人間は、米やパンなど糖質が多く含まれた食品を主食としていますから、全体の食事量を減らすことは、糖質摂取量の減少につながります。そうすると、食事制限で糖質摂取量が減少すればインスリン分泌量も減るので、オートファジーの働きが活性化されると考えられそうです。
カロリー制限による寿命延長効果にオートファジーが100%関係しているとは言い切れないものの、オートファジーが寿命の延長に部分的に貢献している可能性はあるようです。
たとえば、インスリンシグナルに変異をもつ線虫は長寿命となるが、同時にオートファジー遺伝子に変異をもつと寿命延長効果は打ち消される。同様に、カロリー制限による寿命延長効果にもオートファジー遺伝子が必要であるという報告もある。これらの研究成果は、オートファジーを活性化することがカロリー制限による寿命延長効果のひとつのメカニズムであることを示唆している。しかし、オートファジーを抑制することそのものに寿命を短縮する作用がありうるので、完全な答えを得るにはまだ検討が必要であると思われる。(208ページ)
どこまで研究が進んでいるのか知りませんが、オートファジーが寿命の延長に関わっている可能性は高そうです。
ダイエットで食事量を減らそうとするのなら、全体の食事量を満遍なく減らしたり、脂質を優先的に減らすよりも、インスリンの分泌量を増やす糖質摂取量を優先的に減らす方が、長生きには効果がありそうです。もちろん、インスリンは肥満ホルモンなので、その他の食事制限よりも、糖質制限の方が高いダイエット効果を得られることは言うまでもありません。