アミノ酸は種類によってクエン酸回路への合流点が異なる

タンパク質のカロリーは、1グラム当たり4kcalとされています。

以前、これが嘘くさいということを記事にしたことがありますが、やっぱり今でも嘘くさいなと思っています。

タンパク質は、20種類のアミノ酸の集合体です。バリンとかロイシンとか、いろいろとアミノ酸はありますが、どのアミノ酸も1グラム当たりで同じ量のエネルギーを作り出せなければ、タンパク質のカロリーが1グラム当たり4kcalとは言えないはずです。

ということで、どのアミノ酸からも、同じ量のエネルギーを作り出せるのかを考えてみましょう。

クエン酸回路が1周すると10個のATPが作られる

ヒトの主要なエネルギー工場は、細胞内にあるミトコンドリアです。

ミトコンドリアの中では、クエン酸回路(TCA回路)がグルグルと回っており、1周するたびにアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーが10個作られます。難しい言葉で10molと言いますが、ここでは10個としましょう。

厳密には、クエン酸回路が1回転して得られるのは、以下のものです。

  • NADH+H⁺×3個
  • FADH₂×1個
  • ATP×1個

NADH+H⁺とFADH₂は、電子伝達系に送られてATPが合成されます。NADH+H⁺からは1個当たり2.5個のATP、FADH₂からは1個当たり1.5個のATPが得られるので、クエン酸回路1周で10個のATPということです。

10個のATPは、クエン酸回路が1周した時点で得られるものではありません。クエン酸回路が回っている過程で少しずつ作られていきます。

クエン酸回路は、アセチルCoA(コーエー)とオキサロ酢酸がくっついてクエン酸となったところが出発点で、複数の反応を経てオキサロ酢酸となったところがゴールです。ゴールのオキサロ酢酸は、再びアセチルCoAとくっつきクエン酸となり再び1周します。

わかりやすく言うと、ミトコンドリアの中で山手線がずっと走り続けて発電しているような状況ですね。

アミノ酸はどうやってクエン酸回路に合流するのか?

20種類あるアミノ酸も、クエン酸回路に入ってATPを作り出すことができます。

でも、アミノ酸は、種類によってクエン酸回路の合流地点が異なっています。

例えば、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、トリプトファンは、様々な反応を経てアセチルCoAとなります。先ほども述べましたが、アセチルCoAはオキサロ酢酸とくっついてクエン酸となりますから、これらのアミノ酸からは、クエン酸回路が1周すれば、ATPを10個獲得できます。

ところが、これら以外のアミノ酸は、クエン酸回路の別の場所で合流します。

グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、プロリン、ヒスチジンは、乗車駅がα-ケトグルタル酸です。クエン酸回路では、クエン酸からα-ケトグルタル酸に変化する過程で、NADH+H⁺が1個作られるので、α-ケトグルタル酸からオキサロ酢酸に向かうまでに得られるのは、NADH+H⁺×2個、ATP×1個、FADH₂×1個です。したがって、これらのアミノ酸から得られるATPは7.5個となります。

また、バリン、スレオニン、メチオニン、イソロイシンは、スクシニルCoAから乗車し、オキサロ酢酸に到着するまでにATP×1個、FADH₂×1個、NADH+H⁺×1個ができますから、ATPを5個得られます。

他にフェニルアラニンとチロシンは、フマル酸から乗車し、NADH+H⁺を1個作ってオキサロ酢酸に到着するので、得られるATPは2.5個です。

アスパラギン酸とアスパラギンは、終着点のオキサロ酢酸で乗車しアセチルCoAとくっついてクエン酸となりますが、これは、どう評価すれば良いのでしょうか?

システイン、セリン、アラニン、グリシンは、アセチルCoAになる前のピルビン酸に変化するので、クエン酸回路1周分の10個のATPが得られます。

糖原生アミノ酸とケト原生アミノ酸

このようにアミノ酸の種類によってクエン酸回路の合流地点が異なるので、獲得できるATPもアミノ酸によって異なることがわかります。それなのにタンパク質のカロリーは、1グラム当たり4kcalに統一して良いのでしょうか?

普通に考えて、それは違うとなりますよね。食品に含まれるタンパク質は、すべて同じ分量のアミノ酸で構成されているわけではありません。牛肉と大豆ではアミノ酸組成が異なります。

そもそも、現在使われているカロリーの計算方法は、クエン酸回路の仕組みがわかる以前に考案されたものです。そんな計算方法を使っているのですから、カロリー計算が信用できないのは当たり前です。

さて、ここまで説明してきたアミノ酸とクエン酸回路の関係を図にすると以下のようになります。

クエン酸回路へアミノ酸合流

上図で、中央の青い円がクエン酸回路(TCA回路)で、周囲のグレーの背景に書かれているのがアミノ酸です。

緑色の文字で書かれているアミノ酸は、糖原生アミノ酸といい、体内でグルコース(ブドウ糖)を作る糖新生の材料になります。

青色の文字で書かれているアミノ酸は、ケト原生アミノ酸といい、アセチルCoA経由でケトン体を作り出すことができます。

オレンジ色の文字で書かれているアミノ酸は、糖原生とケト原生の両方の性質を持っており、反応の過程でできた生成物が2つに分かれて、一方が糖原生のルート、もう一方がケト原生のルートに合流します。例えば、フェニルアラニンとチロシンは、アセチルCoAに合流する部分とフマル酸に合流する部分に分かれます。これらは、合計で12.5個のATPを獲得するということで良いのでしょうか。トリプトファンにいたっては、アセチルCoAに合流する部分とアラニン経由でピルビン酸に合流する部分に分かれますから、20個のATP獲得となりますよね。

もう、こうなってくると、何が何だかわかりません。それなのにタンパク質は1グラム当たり4kcalで統一なんて、やっぱりおかしいでしょう。

そもそも、タンパク質は、体作りにも使われますから、すべてがエネルギーを作るための材料になると仮定すること自体が変です。

カロリー計算をして、食事に気を使ったり、運動しても、体重が思ったように減らないのは、理論の前提がまちがっているからなのでしょうね。

あなたは悪くない。

参考文献