グルコースと中性脂肪の行方はどうなっているの?

グルコース(ブドウ糖)と中性脂肪は、体内でアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギーを作り出すための材料となります。

グルコースも中性脂肪も、何段階もの反応を経て、細胞質の中にあるミトコンドリアに入ります。そして、クエン酸回路(TCA回路)が回り、たくさんのATPが作られます。

それなら、グルコースも中性脂肪も両方まとめてミトコンドリアに送り込めば、大量のATPを一度に合成でき、とんでもないパワーを発揮できるのではないかと考えてしまいますが、我々の身体は、そう都合よくはできていません。

グルコースか中性脂肪かを選択

体内で、エネルギーを作るためには、インスリンインスリン拮抗ホルモンの働きが必要になります。

インスリンは、すい臓のβ細胞から分泌され、骨格筋や脂肪組織にグルコースを取り込む働きをします。

一方のインスリン拮抗ホルモンは、アドレナリン、グルカゴン、成長ホルモン、糖質コルチコイドなどがあり、中性脂肪やタンパク質を分解して、脂肪酸やグルコースを作り出します。

糖質をたくさん摂取した時には、血中のグルコース(血糖)の濃度が高くなります。そうすると、インスリンが分泌され、骨格筋や脂肪組織に取り込まれます。この時、骨格筋がエネルギーの材料とするのはグルコースです。

反対に糖質を摂取していない時には、体に蓄えた中性脂肪の分解が進みます。したがって、糖質を摂取していない状況では、エネルギーの材料となるのは中性脂肪です。

だから、グルコースと中性脂肪の両方から同時に大量にエネルギーを作ることはできず、グルコースか中性脂肪のどちらかを選択するような形で、我々の身体はエネルギーを作り出すことになります。

グルコースは中性脂肪に、中性脂肪はグルコースに

グルコースも中性脂肪もエネルギーの材料となりますが、興味深いのは、グルコースは中性脂肪になり、中性脂肪はグルコースになるという特徴を持っていることです。

先ほども述べたように糖質をたくさん摂取すると、血中のグルコースの濃度が高まります。その時、インスリンが分泌され、一部は骨格筋、一部は脂肪組織に取り込まれます。そして、脂肪組織に取り込まれたグルコースは中性脂肪となり身体に蓄えられます。

反対に糖質を摂取していない状態が続くと、血中のグルコースの濃度が下がります。この時、身体は、タンパク質や中性脂肪を分解してグルコースを作り出す糖新生という反応を起こします。中性脂肪は、1個のグリセロールに3個の脂肪酸がくっついたものです。糖質を摂取していない状況では、中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解し、グリセロールからグルコースを作り出します。また、この時、脂肪酸は、クエン酸回路へと向かい、エネルギーを作り出す材料となります。

以上の説明をまとめたのが以下の図です。

グルコースと中性脂肪の分解、合成、エネルギー生成

赤色の矢印はグルコースの流れ、そして、緑色の矢印は中性脂肪の流れを示します。青色の矢印は、両方に共通する流れでクエン酸回路を回してATPを合成する流れです。

グルコースの赤色の流れを見ればわかりますが、グルコースが最終的に行き着くのは中性脂肪です。糖質摂取が太るとされているのは、この赤色の流れをたどって中性脂肪となるからなんですね。

糖質摂取は中性脂肪の分解をストップする

中性脂肪を分解してエネルギーを作るためには、ホルモン感受性リパーゼが働かなければなりません。

ホルモン感受性リパーゼは、インスリン拮抗ホルモンが分泌されると活性化します。反対にインスリンが分泌されると、その働きは抑制されます。

中性脂肪が分解されてできた脂肪酸は、血中に放り込まれるとアルブミンとくっつき遊離脂肪酸になります。遊離脂肪酸となった脂肪酸は、他の組織に運ばれエネルギーの材料となります。脂肪組織に蓄えた中性脂肪を減らすためには、中性脂肪を分解して、脂肪酸を他の組織に運ぶ必要があるわけですね。

栄養学関係のウェブサイトやブログを見ると、このことが解説されています。ところが、医学関係、特に糖尿病について解説しているウェブサイトやブログでは、血中の遊離脂肪酸濃度が高まると糖尿病が悪化すると解説されています。

肥満の方は糖尿病になりやすいです。だから、肥満を解消することが糖尿病の予防になります。肥満とは、体に蓄えた中性脂肪が多い状態です。ホルモン感受性リパーゼの働きを活性化して、中性脂肪の分解を促進すれば肥満を解消できます。そして、中性脂肪の分解が進めば、血中の遊離脂肪酸濃度は高くなります。すなわち、血中の遊離脂肪酸濃度が高い状態は、中性脂肪の分解が進んでいる状態なので、肥満解消に好ましいことなのです。

それなのに血中の遊離脂肪酸濃度が高いと糖尿病になるというのはおかしな話です。

なぜ、このようなことをお医者さんが言うのか不思議だったのですが、お医者さんは栄養学をほとんど勉強していないという事実を知って納得しました。

インスリンが分泌されると遊離脂肪酸濃度が下がる

中性脂肪を分解してエネルギーを作り出している状態では、血中の遊離脂肪酸濃度が高まります。

反対にグルコースからエネルギーを作り出している状態では、血中の遊離脂肪酸濃度が低くなります。

ここまで読まれた方は、その理由がわかりますよね。

糖質摂取でインスリンが分泌されると、ホルモン感受性リパーゼの働きが抑えられ、中性脂肪の分解がストップするから、血中の遊離脂肪酸濃度が下がるんですね。そして、血中の遊離脂肪酸濃度が低いということは、中性脂肪がエネルギーの材料となっていないわけですから、いつまで経っても中性脂肪を減らすことができません。

運動すれば中性脂肪を減らせますが、これは、運動でアドレナリンやノルアドレナリンといったインスリン拮抗ホルモンが分泌され、ホルモン感受性リパーゼの働きが活性化し、中性脂肪の分解が進むからです。つまり、運動すれば、血中の遊離脂肪酸濃度が高まるわけです。

遊離脂肪酸濃度が高いことを悪とするなら、糖尿病の人は運動してはいけないことになります。しかし、肥満の解消のために運動は推奨されていますよね。運動を推奨するなら、血中の遊離脂肪酸濃度が高いことを悪とは言わないはずです。

グルコースと中性脂肪から、どうのよにしてエネルギーが作り出されているのかを理解しようと思ったら、以下の参考文献に挙げている本などを読むのが最も効果的です。ネット上には、これらの本を読まずに「遊離脂肪酸は悪だ」とか「糖質摂取と肥満は関係ない」とかいう人が山のようにいます。お医者さんでも同じね。

体の中で、どのようにしてエネルギーが作られるのかを理解するのは難しいですが、大雑把にイメージできるようになれば、ネット上にあるダイエットなどの情報の信頼性を自分で評価できるようになりますよ。

参考文献