肉食VS菜食の健康談義に欠けているもの

どのような食事が健康に良いのかという議論が、よく交わされますよね。

その典型が、肉食と菜食です。肉、魚介類、卵、乳製品などをたくさん食べた方が健康に良いのか、それとも、野菜中心の食事の方が健康に良いのか、といったものです。

スロートレーニングをしている立場からは、タンパク質をたくさん補給できる肉食の方が筋力アップに効果的なので、良いと思います。でも、肉食は何かと健康に悪い印象があって、最近では、野菜をたくさん食べることが健康に良いんだといった主張の方が優勢ですね。

統計で見ると菜食の方が健康的?

健康に気を使っている人なら、テレビの健康番組を見たり、家庭医学書を読んだりして気付いているとは思いますが、肉食と菜食なら、菜食の方が健康的という情報の方が圧倒的に多いですね。

多くの識者が菜食の方が健康に良いと言っているので、そうなのだろうと思います。

でも、菜食が健康に良いという情報の多くが統計から出した結論なんですよね。野菜を多く食べている人の方が肥満者が少ない、野菜を多く食べている人の方が長寿、肉をよく食べる人の方がガンになりやすい、肉をよく食べる人の方が糖尿病になりやすいなどなど、これらは全部統計から導き出した結論です。

しかし、統計をうのみにするのはどうなんでしょうか。

統計でよく使われるのが、2つのデータに相関関係があるかないかをグラフにする手法です。

例えば、医療費の増加の推移と高齢者の増加の推移を重ね合わせて、両者が右肩上がりになっていると、高齢者が増えるとそれに伴って医療費も増えていくといった結論が導き出されます。

こうやって見ると、非常にわかりやすいから統計はいろいろなところで使われているわけですが、ただ、こういった手法では、例外が発生した時の取り扱いによって結論が変わるんですよね。

私は、以前に統計が関係してくる仕事をしていたのですが、例外が出てくると非常に面倒になります。なぜなら、その例外がどうして発生したのかを調べないといけないからです。

こういう場合、早く仕事を切り上げて帰宅したいという気持ちが強いと、その例外は突発的に発生したもので、全体に与える影響は軽微だから無視するという結論に持っていきがちです。まあ、そういったことをしても、上司がその内容を確認すれば、手を抜いたことがすぐにばれてしまって、やり直しとなるんですけどね。

仕事の手を抜くということの他にも例外を無視したくなる動機があります。

それは、自分がひらめいた仮説を正当化するという動機です。

例えば、肉食がガンのリスクを高めるという仮説を思いついたとしましょう。この場合、中立の立場を貫ければ、問題はあまり起こらないのですが、出世だとか名誉だとかそういったものが関わってくると、自分がひらめいた仮説に有利な分析をしてしまうことがあります。

肉は肉でも、牛肉を多く食べている人と豚肉を多く食べている人でガンの発症率が異なっていたり、ロースをよく食べる人とカルビをよく食べる人で異なっていたりすると、肉食とガン発症率との間に相関関係を見つけにくくなります。

さらにガン患者の数に地域差があったりすると、もっと複雑になってきます。

比較するデータが増えれば増えるほど、肉食とガン発症率との因果関係がわからなくなってきて、最終的には、自分の期待する結果と異なるデータは、異常値として除外し、こじつけという名の分析分析という名のこじつけが完了します。

そして、肉を多く食べる人はガンにかかりやすいといったことが公表され、みんながそれを信じてしまうわけです。

なお、上の例は私が勝手に考えたことなので、肉食とガンの関係については知りません。

肉食と糖尿病の誤った比較

最近、神経内科医のたがしゅう先生のブログにベジタリアンのトリックという記事が投稿されていました。

記事の内容を簡単にまとめると、ベジタリアンは非ベジタリアンよりも糖尿病になりにくいと書かれた書籍の統計のやり方に問題があるのではないかというものです。

その書籍では、ベジタリアンと非ベジタリアンという2つの比較になっていますが、これをさらに深く読んでみると以下のような対比になっていたそうです。

そのほとんどが「穀物少な目のベジタリアン」vs「穀物多めの非ベジタリアン」という構図での疫学的な研究結果の有意差を根拠とされています.

これはどういうことかというと、米や小麦粉などの糖質が多く含まれている穀物をあまり食べないベジタリアンと肉も穀物もたくさん食べる牛丼大好きみたいな非ベジタリアンとの比較になっているということです。

つまり、紹介されていた書籍には、肉食と菜食という単純な比較のようになっていますが、実は、そこには糖質の摂取量の多少も混ざり込んでいるのです。こうなってくると、分析の仕方は、肉食と菜食の2種類の比較ではなく、糖質の多少も加えた4種類の比較にしなければなりません。

図示すると以下のようになります。

肉食と採食の比較

こうやって見ると分かると思いますが、肉食と菜食を比較するのなら、高糖質の肉食(A)と高糖質の菜食(B)との比較、あるいは低糖質の肉食(C)と低糖質の菜食(D)との比較にしなければ、糖質摂取量の影響が分析結果に入ってきてしまいます。

ところが、紹介されていた書籍では、高糖質の肉食(A)と低糖質の菜食(D)が比較され、AよりもDの方が、糖尿病になりにくいという結論が導き出されていたというのです。これだと糖尿病の原因が、肉食にあるのか高糖質にあるのかわかりませんよね。

「肉食VS菜食」という健康談義に欠けているものって、こういうことなんですよね。

肉か野菜かの他に健康に与えている影響が他にもあるのにそれを切り捨ててしまうから、我々一般人にとっては、何が健康によくて何が健康に悪いのかが、よくわからなくなるのです。

同じ医者なのに、同じ栄養士なのに、言っていることが真逆ということはよくありますよね。風邪ひいたら体を温めろという医者もいれば、体を冷やせという医者もいます。どちらの方法を選択しても、1日か2日経って治っているのなら、そこに答えはないのではないでしょうか。