クレアチンリン酸はグルコースよりも即効性のあるエネルギー源

以前にグルコース(ブドウ糖)と脂肪酸のどちらが主要なエネルギー源なのかといった記事を書きました。

即効性を重視するなら解糖系+グルコース、エネルギー量を重視するならミトコンドリア+脂肪酸が、主要なエネルギー源となるのではないかと述べたのですが、実は、解糖系+グルコースよりも即効性のあるエネルギー源があります。

それは、クレアチンリン酸です。

解糖系でもATP産生に10段階必要

生物のエネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)とされています。

グルコースは、解糖系を経てピルビン酸になりますが、この時に2分子のATPが生み出されます。そして、ピルビン酸はミトコンドリアに入り、アセチルCoAとなった後、オキサロ酢酸とともにクエン酸回路に入り30分子のATPが生み出されます。

解糖系は酸素が供給されなくてもATPを作り出せるので、酸素を必要とするミトコンドリアよりもATP産生が速いといった特徴があります。しかし、生み出されるATPはわずか2分子でしかありません。

解糖系が2分子のATPを産生するためには10段階の反応が必要になります。即効性があると言っても10段階も経なければATPを作り出せないのですから、よくよく考えてみると、それほど速い反応とは言えないですね。

クレアチンリン酸はもっと速い

解糖系よりも、もっと速くATPを生み出す方法があります。それが、冒頭で紹介したクレアチンリン酸の利用です。

クレアチンリン酸は、クレアチンに1分子のリン酸がくっついた物質です。この2つの物質のつなぎ目にエネルギーが蓄えられています。

クレアチンリン酸からリン酸が切り離されるとエネルギーが放出されます。そのエネルギーを利用して、切り離されたリン酸がアデノシン2リン酸(ADP)に受け渡されるとATPが再合成されます。

たったこれだけの反応でATPを生み出せるのですから、10段階の反応が必要な解糖系よりも、クレアチンリン酸は圧倒的スピードを持っていると言えます。

クレアチンリン酸は体内にどの程度貯蔵できるのか?

このように即効性のあるエネルギー源のクレアチンリン酸ですが、体内にどの程度貯蔵されているのでしょうか?

検索してみると、川崎市立看護短期大学准教授の西端泉先生の「フィットネス運動生理生化学」というPDFファイルが見つかりました。このPDFの「第2回:クレアチンリン酸によるATP再合成」に以下の記述があります。

普段、歩く程度の強度の運動しか行わないこの父親の骨格筋の中には、クレアチンリン酸は少量しか蓄えられていません。おそらくは、10秒以内にクレアチンリン酸からエネルギーをもらうことによるATPの再合成ができなくなり、ATPが足りなくなってきます。ATPが不足すると、骨格筋の細胞は活動を続けることができなくなるので、足がもつれ、転倒してしまうことになります。これが、短距離走の前半では順調に走っていた人が、ゴールの目前で転んでしまう原因です。

この文章は、ほとんど運動しない父親が子供の運動会で100m走に参加した場合を例にしています。

クレアチンリン酸は骨格筋に蓄えられていますが、その貯蔵量は全力疾走した時に速度が落ちてくるまでのようです。10秒間トップスピードを維持できる人、20秒間トップスピードを維持できる人、個人差はあるでしょうが、クレアチンリン酸は体内にそれほど貯蔵されていないことがよくわかります。

クレアチンリン酸の貯蔵量は増やせる

西端先生のレポートによると、骨格筋のクレアチンリン酸の貯蔵量は、クレアチンリン酸を枯渇させるようなトレーニングを定期的に行うことで増やせるそうです。

クレアチンリン酸は、ウォーキングやジョギング程度の運動ではほとんど使いません。全力疾走や高強度のレジスタンストレーニング(筋トレ)を行った時に貯蔵量を増加させることが可能です。

また、骨格筋量を増加させることでも、クレアチンリン酸の全体量を増加させることができます。骨格筋量を増加させるには、レジスタンストレーニングが最良の方法だということです。

なお、クレアチンは人間の体内で合成できますし、リン酸は多くの食べ物に含まれています。したがって、人間は体内でクレアチンリン酸を作り出せます。ただ、加齢によってクレアチンの合成能力が衰えてくるので、食事での摂取が大切です。

クレアチンは、ヒトの体内でつくることができるのですが、加齢に伴ってクレアチンをつくる能力が衰えていきます。牛や豚などの肉には含まれていますが、高齢者の場合は、肉をあまり食べなくなったりします。このようなことから、高齢者では、クレアチンが不足する傾向にあります。

近年、高齢者が、転倒などの理由で介護が必要となる危険性が高まるロコモティブシンドロームが問題になってきています。

ロコモにならないためには、日頃から運動することが大切だと言われています。歩いている時につまずいて転倒しそうになった時、踏ん張る力とエネルギーが必要ですが、瞬間的にエネルギーを生み出すためにはクレアチンリン酸もしっかりと筋肉に貯めておかなければならないはずです。

そのためには、高齢者でもできるスロートレーニングをしたり、肉食を心がけることが大切ではないでしょうか?